研究レポートサラダがもたらす情緒的な価値を探る研究が始動

※掲載内容は2025年10月時点の情報に基づきます。

サラダで人の幸せ、ウェルビーイングに貢献したい

野菜は「体に良い」というイメージが強いため、「野菜を摂らなければならない」と思ってサラダを口にしている方も少なくないかもしれません。
主役になりやすい他の料理と比べると、サラダは副菜として脇に添えられる存在と思われがちです。
しかし、サラダを食べることで自分を大切にできている実感がわいたり、みずみずしい彩りから自然の豊かさを感じたり、シャキシャキとした食感を楽しんだりと、サラダには気分を高めたり心を動かす要素がたくさん詰まっています。
そこで私たちは、サラダを義務感で食べる食事から、ポジティブな幸福感が得られる食事へと認識が変わってほしいという想いで、サラダの情緒的な価値に着目した研究を始めました。
この取り組みを通じて、野菜摂取が少ない若い世代や普段サラダをあまり食べない方々にも興味を持っていただけるように、サラダが持つ魅力を新しい視点で伝えていきたいと考えています。

田中 知珠
(食創造研究所 野菜価値創造部 野菜・惣菜研究チーム)

サラダを義務感で食べる人々の意識を変え、心身の健康に貢献することをめざして、サラダの価値研究・情報発信に取り組んでいます。

サラダボウルが働く人のウェルビーイングに与える影響

研究概要

食事や野菜摂取が心の健康と関わる可能性は知られていますが、「サラダ」という料理として食べたときに主観的な幸福感にどのような影響があるのかを検討した例はまだ多くありません。
サラダの中でもサラダボウルは、野菜が豊富に使われその特徴を強調した料理といえます。
近年では、都心のオフィス街を中心にサラダボウルを提供する専門店が増えており、一部の働く人々の食事の選択肢としても定着しつつあります。
こうした背景を踏まえ、サラダボウルが働く人のウェルビーイングにポジティブな影響を与えるのかを検証する研究に取り組みました。

研究成果

キユーピーグループの従業員男女19名を対象に、昼食としてサラダボウルを提供する介入研究を実施しました。
平日5日間のうち2日間(月曜日と水曜日)にサラダボウルを昼食として食べてもらい、平日5日間とも普段通りの昼食を食べてもらう対照期間とのウェルビーイング指標の比較を行いました。
ウェルビーイングを測るために、武蔵野大学 前野隆司先生の明らかにした幸せの4因子(やってみよう因子、ありがとう因子、なんとかなる因子、ありのままに因子)をベースとして設計した主観アンケートを用いました。
その結果、サラダボウルを摂取した日は、4つの因子に関連するスコアがすべてが対照日より有意に高くなり、昼食にサラダボウルを摂取することがウェルビーイングの向上に繋がる可能性が示されました。
また、サラダボウルを摂取した1週間でみると、「ありのままに因子」のスコアが対照週と比較して有意に高くなりました。
被験者の多くが主観的な健康感を実感し、昼食への満足度も高い結果となりました。

出典:田中ら, 第3回ウェルビーイング学会学術集会(2025年) 学会発表より一部改編

サラダを食べている時の咀嚼音が感情に与える影響

研究概要

レタスやキャベツを食べる時の「シャキシャキ」「パリッ」という音に、思わず気持ちが軽くなるような心地よさを感じたことはないでしょうか?
食品の咀嚼音の知覚に関する研究は、これまで主にスナック菓子や揚げ物を対象に、咀嚼音の効果が検証されてきました。
代表的なものでは、ポテトチップスをかじる時の音が大きいほど、よりサクサクに新鮮に感じるという面白い研究があります。
そこで、サラダを食べるときの知覚や感情においても、味や見た目、食感だけでなく、咀嚼音もポジティブな役割を果たし得るのではないかと考えました。
今回はサラダを食べている時の咀嚼音が感情に与える影響について、調べてみました。

研究成果

キユーピーグループの従業員男女24名(24~57歳)を対象に、3種類の音環境下でサラダを食べてもらい、その時の感情をアンケートによって主観評価してもらう研究を行いました。
①ホワイトノイズ条件(咀嚼音をかき消すためのホワイトノイズを流しながらサラダを食べる)、②自然条件(対照として、特に操作をしない環境でサラダを食べる)、③咀嚼音増強条件(集音マイクとヘッドフォンを設置し、咀嚼音をリアルタイムでフィードバックすることで咀嚼音を増強する)の感情スコアを比較しました。
その結果、ホワイトノイズ条件下では「心地よさ」と「リフレッシュ感」と「食べたい」の指標が他の条件より有意に低くなり、咀嚼音増強条件下では「わくわく感」と「覚醒度」が有意に高くなりました。
これらの結果から、サラダを食べる際の咀嚼音は、その食事体験に情緒的な価値を付与し、ポジティブな感情を引き出す要因となる可能性が示されました。

出典:田中ら, 日本食品科学工学会第72回大会(2025年) 学会発表より一部改編

今後の展望

以上2つの研究は、幸福学や感性学など、キユーピーとしてこれまでに取り組んでこなかった分野にサラダで挑戦するという新しい試みの第一歩でした。
今後は従業員以外を対象とした試験や、外部専門機関との連携による研究技術の検討も行っていきたいと考えています。
身体の健康のための野菜摂取はもちろん大切ですが、義務感として押し付けすぎることなく、心身ともにいきいきと食事と人生を楽しめるウェルビーイングな未来づくりに貢献していきたいと思っています。
引き続き、サラダを楽しんで食べていただくきっかけをつくれるようなエビデンスづくりを進めてまいります。

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