研究・調査

23/04/26

No.38

卵アレルギーで苦しむ人をゼロにしたい

広島大学との共同研究 熱や消化酵素に強いアレルゲン「オボムコイド」を含まない鶏卵の作出アレルギー低減卵の安全性を確認

学術誌『Food and Chemical Toxicology』2023年5月号に掲載

 キユーピー株式会社(本社:東京都渋谷区、代表取締役 社長執行役員:髙宮 満、以下キユーピー)は、国立大学法人広島大学(学長:越智 光夫、以下広島大学)と共に、2013年からアレルギー低減卵※1の共同研究を進めてきました。2022年4月からは、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)による産学連携プログラム「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」※2の「共創分野(本格型)」に採択され、10年間のプロジェクトが始まっています※3。この度、2020年に作出に成功した、主要なアレルゲンである「オボムコイド」を含まない鶏卵の「安全性」を世界で初めて確認し、その研究成果に関する論文が、学術誌『Food and Chemical Toxicology』2023年5月号に掲載されることになりました。

※1 鶏卵中に含まれる熱や消化酵素に強いタンパク質を除去することで、アレルギーを低減できる鶏卵のこと。

※2 COI-NEXTの進行中プロジェクト https://www.jst.go.jp/pf/platform/site.html

※3 キユーピーアヲハタニュース2022年No.35参照

なぜ、オボムコイドを除去する必要があるのか?

             

図1 加熱によるタンパク質の変化の違い

 食物アレルギーの症状を持つ人の割合は、2歳までが全体の約55%、11歳までが約90%と、小児が多くを占めています。また、原因食物については、第一位の鶏卵※4が約33%を占め、牛乳、木の実類、小麦がこれに続きます。鶏卵のアレルゲンとなる物質は、卵白に含まれるタンパク質(オボアルブミン、オボトランスフェリン、オボムコイド、オボムチン、リゾチームなど)と言われています。オボムコイド以外のタンパク質は熱に弱いため、十分に加熱すればアレルゲン性が低下します。しかしながら、オボムコイドは熱にも消化酵素にも強いため、加熱調理や消化酵素を用いた加工を施しても、アレルゲン性が失われることがありません(図1参照:加熱によるタンパク質の変化)。
 そこで、オボムコイドを含まない鶏卵を作出できないか、2013年から広島大学と基礎研究を続け、2020年にはラボレベルでの作出に成功しています。

世界初。オボムコイドが除去され、副産物や標的以外への影響がないことを確認

             

図2 オボムコイドを含まない鶏卵の作出方法

 オボムコイドを含まないアレルギー低減卵は、ゲノム編集技術により、鶏の受精卵のオボムコイド遺伝子の働きを狙って止め、その後孵化した鶏が成長し、交配・産卵することで作出されます(図2参照)。ゲノム編集には、広島大学が独自開発した、高活性型のPlatinum TALEN(pTALEN)の技術を用い、鶏のオボムコイド遺伝子の働きを止めることに成功しました。このようにして作出した鶏卵(アレルギー低減卵)を食品として利用するには、ゲノム編集による副産物や、標的以外へのゲノム編集の影響を解明し、「安全性」を確認する必要があります。そこで、広島大学を中心に研究・解析をした結果、作出したアレルギー低減卵には、オボムコイドも副産物も含まれていないことが証明されました。また、ゲノム編集による、別の遺伝子の挿入や他の遺伝子への影響も全くないことが明らかとなり、世界で初めて、その安全性を確認することができました。この研究成果に関する論文は、学術誌『Food and Chemical Toxicology※5』2023年5月号に掲載される予定です。

※5 2023年3月に電子版で先行公開。論文タイトル:Transcription activator-like effector nuclease-mediated deletion safely eliminates the major egg allergen ovomucoid in chickens
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0278691523001059

■試験の詳細は、広島大学のプレスリリースを参照
https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/76416

次なる研究は、物性評価と加工適性評価。そして、臨床試験による有効性の確認

 今回の研究成果は主に、2013年から行ってきた広島大学との基礎研究の成果にあたります。現在は、応用研究フェーズに移り、採択2年目となるCOI-NEXTにおいても、次なる研究が進んでいます。応用研究の主な三本柱は、①有効性評価、②育種造成、③物性・加工適性評価、の3つです(図3参照)。キユーピーが主として関わる研究テーマとしては、①有効性評価のうち、独立行政法人国立病院機構相模原病院と共に取り組む、「臨床試験」が挙げられます。実際に、アレルギー低減卵を用いた血清試験と患者による喫食試験を行い、有効性を確認します。さらにキユーピーが取り組む、もう一つの主要テーマは、③物性・加工適性評価です。「凝固性」「起泡性」「乳化性」などの加工適性が、アレルギー低減卵にも同等にあるのかなど、さまざまな食品への利用の可能性を探るために重要な研究です。これらの研究については、今年度中にその成果を学会で発表する見通しです。
 今後は、広島大学を始め、相模原病院、株式会社坪井種鶏孵化場、東京農業大学、プラチナバイオ株式会社、キユーピータマゴ株式会社を中心に、共に研究を担う仲間を増やしながら、アレルギー低減卵の実用化に向けてさらなる研究を進めていきます。

図3 応用研究フェーズの軸となる研究テーマ

“食の選択肢”を広げたい。卵アレルギーで苦しむ人=「ゼロ」への思い

 キユーピーグループは、国内鶏卵生産量の約1割を取り扱う、“卵の会社”です。また、「健康寿命の延伸」を実現するため、栄養価に富む卵の有用性を発信し続けています。その一方で、卵を食べたくても食べられない人がいるのも事実です。私たちは“卵の会社”として、そのような事実に向き合い、卵アレルギーで苦しむ人を「ゼロ」にしたいという思いで、さまざまな取り組みを進めてきました。例えば、特定原材料不使用のベビーフードの開発や、卵を使わないマヨネーズタイプ調味料「キユーピー エッグケア(卵不使用)」の開発、アレルゲン免疫療法・予防への研究支援、卵を使わないプラントベースフード「HOBOTAMA」の開発などがあります。2022年11月には、鶏卵を加熱したのちにオボムコイドを水で洗い流す処理を施した「低アレルゲン化鶏卵粉末」を用いて、安全に卵アレルギーを予防する可能性が示唆され、学会で研究成果を発表※6しています。
 あらゆる方法で“食の選択肢”を広げることは、食品メーカーが向き合うべき重要なテーマです。キユーピーは、今後もアレルギー低減卵の研究に真摯に取り組んでいきます。

■キユーピー企業サイト内に、研究レポート「卵アレルギーに向き合う研究で子どもたちを笑顔に!」を2023年4月26日に公開:
https://www.kewpie.com/rd/innovation-story/2023_02/


印刷時には、PDFデータをご利用ください。

ページの先頭に移動する