知っておきたい高齢期の口腔ケア

これまで、口の働きや口のトラブルが生活に及ぼす影響を解説してきました。今回は健康な口で食事を楽しむための、日々の生活の中で気を付けたいポイントについて解説します。
食事の際の姿勢が悪いと、咀嚼力(そしゃくりょく:噛む力のこと)の低下や誤嚥のリスクが高まります。安全に楽しく食事をするために、姿勢にも気をつけましょう。
食事中の姿勢が安定することで、しっかりと体に力が入って口の動きや飲み込みがスムーズになり、食事に集中できるようになります。また、姿勢を正すと消化器官が圧迫されないため、消化、吸収力が上がり、食事の質も上げられます。
一人での食事は、手軽に時間をかけずに済ませてしまいがちです。そのため、栄養バランスが偏りやすくなり、低栄養のリスクが高まることが懸念されます。できるだけ家族と食卓を囲む頻度を増やしたり、地域コミュニティでの食事会への参加なども取り入れながら、楽しく食事をする機会を増やしましょう。
⇒ 低栄養については、こちら(低栄養が進むとどうなるの?)もご覧ください。
オーラルフレイルは、早期発見と正しいケアを続けることで、口まわりの老化や働きの低下を緩やかにし、放置すれば失われる可能性のある口の機能を回復させる余地がある、とされています(日本歯科医師会:歯科診療所におけるオーラルフレイル対応マニュアル2019年版)。
オーラルフレイルを防ぐために今から意識したいポイントを紹介します。
■ゆっくりよく噛んで食べる
1口につき30回以上噛むことが理想ですが、はじめは普段より多く噛むことを意識し、噛みやすさを工夫した調理法を取り入れるなどして日頃から“噛む力”を鍛えましょう。
⇒ 調理法の工夫については、こちら(少しの工夫で噛みやすく)もご覧ください。
■“だらだら食べ”に気をつける
口の中に食べ物がある状態が長時間続くと、虫歯や歯周病を発症・悪化させる原因となります。食事にあまり時間をかけすぎず、間食をとる場合も何回にも分けるのではなく、時間を決めてまとめて食べるようにしましょう。
■食べたいもの、食べやすいものだけに偏らない工夫で食事を楽しむ
普段食べにくいと感じ避けている食材があれば、“飲み込みにくい食べもの”と“飲み込みやすい食べもの(飲みもの)”を交互に食べる「交互嚥下(こうごえんげ)」を試してみましょう。まんべんなく食材を楽しめると、栄養の偏りも防ぎやすくなります。
⇒ よく噛むことのメリットについては、こちら(健康長寿は「食べる口」のチェックから)もご覧ください。
.1日3食毎日食事をしていれば、健康を害するリスクは低くなる?
正解はNO!
ただ食事することを目的にしてしまうと、口に入れば何でもよくなってしまいます。そうなると低栄養や食事量の減少といったリスクが高まり、そこから食欲や運動機能が低下して生活の質が悪くなるといった悪循環に陥る場合も。バランスや咀嚼(噛む力)を意識した食事をすることが重要です。同時に、会話を楽しみながら食事をすることは心も体も満たされ日々の活力につながるため、食事環境を整えることもとても大切です。
口の中で細菌が繁殖していると細菌が食べ物や唾液と一緒に体内に入り込み、誤嚥性肺炎など病気を発症するリスクが高まります。口の中は常に清潔に保つよう心がけましょう。
歯みがき時の
チェック項目
歯垢のたまりやすい場所がきちんとみがけているか
歯と歯の間、歯と歯ぐきの境目、奥歯の溝部分
歯ぐきは引き締まっているか
歯ぐきが赤く腫れていないか
▼ワンポイントアドバイス
就寝中は唾液の分泌が減り細菌が繁殖しやすいため、特に就寝前は丁寧にみがきましょう。デンタルフロス、歯間ブラシ、舌ブラシ、洗口液の活用も効果的です。
また、加齢により唾液の分泌量が減り、口腔乾燥症(ドライマウス)になりやすくなります。こまめな水分補給やうがいを行い、保湿剤が入った洗口液の使用なども検討してみると良いでしょう。乾燥がひどい場合には、早めに歯科医師に相談してください。
合わない入れ歯を装着していたりケアを怠ったりしていると、違和感や痛みなどから食事を味わって食べることが難しくなります。おいしく食事を楽しむためにも、入れ歯のケアは日頃からしっかり行いましょう。
⇒ お口のケアについては、こちら(少しの工夫で噛みやすく:ワンポイントアドバイス)もご覧ください。
コラム:
訪問歯科診療を活用しましょう!
通院が難しい方向けに、ご自宅に歯科医師や歯科衛生士が訪問して治療やケア・指導をしてくれる「訪問歯科診療」という制度があります。外来受診が困難になった場合、口のトラブルや食事での困りごとは放置せず、まずは専門家に相談しましょう。かかりつけ医やケアマネジャーを通して、専門家のアドバイスなどが受けられます。
.正しい口腔ケアについて知ることは、健康を守ることにつながる?
正解はYES!
歯周病など口の中にトラブルがあると咀嚼などにも影響を及ぼし、食事量や栄養摂取の偏りにもつながります。食事は健康な体の維持には不可欠であり、噛む力を保つことがとても重要です。治療や義歯のメンテナンスは適切に行い、しっかり噛める歯と口を整えて食事を楽しみながら健康を維持しましょう。
口を日頃からたくさん動かすことで、口まわりの筋肉が鍛えられ、食べる力や口の健康が維持できます。また、飲み込む力の維持には全身の筋肉を保つような生活も重要です。嚥下をスムーズに行うためのトレーニングやマッサージを、習慣化して行いましょう。
嚥下の力を強化する3つの運動
[ 1 ] 脚(太ももの裏「ハムストリングス」)を伸ばす
椅子や台に片足を乗せて膝を伸ばし、太ももの裏をストレッチする。
太ももの裏の筋肉が硬くなってくると、前に体を曲げることが難しくなるため深く座れなくなります。食べる姿勢に悪影響が出てくるのを予防します。
[ 2 ] 腕を組んで上げる
肘を抱えて両腕を上げ、胸を伸ばす。
呼吸が深い方が誤嚥はしづらくなります。猫背を改善させ、肋骨と肋骨の間のストレッチになり、呼吸を深く保つことにつながります。
[ 3 ] 口を本気で開ける
口を本気で大きく「あー」と開ける。
口を開けるときは顎を下に下げる、飲み込むときは喉仏周辺を喉の方に持ち上げる動きをする「舌骨上筋」という筋肉を鍛えることで、嚥下機能の改善につながります。
⇒ 唾液腺マッサージや舌のトレーニングについては、こちら(一人何役?唾液の働き)もご覧ください。
.現在食事や日常会話が問題なく出来ていれば、口の衰えは特に気をつかわなくても良い?
正解はNO!
口の筋肉も意識して鍛えておかないと、加齢とともに衰えます。口の運動は、口や舌の動きがなめらかになり食事や会話をスムーズにします。また、食前に頬や舌などを動かすと唾液がよく出るようになり、食べ物を咀嚼して飲み込むまでの一連の動きをスムーズにするため誤嚥防止にもつながります。身体と同様に、口腔機能を保つトレーニングも必要です。
戸原先生より「口の機能を衰えさせない食事とケア」
食事を単なる栄養摂取と捉えず楽しむことに意識を向けると、食に対する興味・関心が湧き、食事の質を向上させることができるでしょう。孤食を避け会話を楽しみながら食事をすることは、口の働きを維持し、生活の質を上げることにもつながります。正しい口腔ケアとともに、口の筋肉を維持する運動もぜひ取り入れてください。