しっかり噛めていますか?

食べるための口の働き、ご存知ですか?

わたしたちは普段特に意識することなく口を動かして食べています。口の中(歯、歯ぐき、歯並び、舌、唾液など)の状態が変化するにつれて、以前より噛みづらい、食べづらい、と感じることがあります。今回は、口のどの部分がどのように働いて「食べる」ということが行われているのかを解説します。いつまでも食事をたのしめる口を保つために、まず「食べるためにしっかり噛む」ことを意識してみませんか?

わたしたちは普段特に意識することなく口を動かして食べています。

歯があればしっかり噛めるの?

わたしたちは食べるために、口を動かす筋肉(咬筋:第2回 図1参照)を使って「噛む」という運動を行っています。ここで注意してほしいのは、「噛んでいる」ことと「噛めている」ことは違うということです。口は動いているのに、いつまでも口の中に食べ物が残っていたり、こぼれやすかったり、ということはありませんか。唇、舌、頬の動き、唾液の分泌量、そして噛み合わせ。これらがすべて整った状態で初めて、食べ物をしっかり噛むことができます。食べ物を一口大に切り分け、それを奥歯ですりつぶしてまとめ、飲み込める状態(食塊:しょっかい)にすることが、しっかり噛めているということです。

<しっかり噛める口の条件>

  • 唇をしっかり閉じることができる

    ・噛んでいるときに口から食べ物をこぼさない。

  • 唾液が十分分泌されている

    ・食べものを噛んだときに水分が混ざることでまとまりやすくなる。

  • 舌がよく動く

    ・唾液や噛んだものをすくって奥歯に運んだり奥歯から落ちないようにする。
    ・すりつぶされた食べ物を喉に送りこむ。

  • 歯や歯ぐきが健康である

    ・ぐらつきや痛みのない健康な歯や歯ぐきでしっかり噛む(つぶす)ことができる。

  • 上下の歯の噛み合わせがよい

    ・噛み合うことで、食べ物を上下の歯でしっかりすりつぶすことができる。

  • 頬の筋肉が働いている

    ・頬の内側が奥歯側に寄ることで、こぼれずにしっかりすりつぶせる。

しっかり噛める口の条件

舌や頬の働きが食べることを支えている

しっかり噛むためには歯の状態だけでなく、実は「舌」や「頬」の働きがとても重要です。
舌は、唾液をすくいあげて食べ物と混ぜたり、舌の上の食べ物が十分すりつぶされるまで奥歯の上に乗せておくために、前後・左右・上下・ひねりなど、絶妙な動きをしています。
舌と協調して動いている頬も、奥歯にぴったりとくっついて壁の役割を果たし、食塊がこぼれないように壁の役割をしています。この壁によって、噛んだ食べ物を奥歯から落とすことなく、よく噛むことができるのです。

コラム:舌は精巧な食物センサー

舌は、味覚だけでなく食べ物の性質を判断するセンサーでもあります。
口の中に入った食べ物は舌によって上顎に押しつけられますが、そのとき舌は、食べ物のかたさや温度を素早くチェックしています。
その結果、やわらかいものはそのまま舌と上顎でつぶし、少しでもかたいと判断すると、噛んですりつぶすために左右の奥歯の方に食べ物を送ります。
大きいものは、噛み切るために前歯の方に送り、適当な大きさにして奥歯に運びます。
奥歯で噛んで食べ物が小さく散らばったのを感じ取ると、舌は食べ物を集め、唾液と混ぜて食塊を形成します。そして舌中央のくぼみに集めて飲み込むための準備をします。
何気なく食べていると気づかない舌の動き。時には、舌がどう動いているかを意識しながら食べてみると、とても複雑な動きをしていることに気づくでしょう。

口のトラブルチェックリスト

歯や舌の働きは、使わないと衰えていきます。日本人はかつての和食中心の時代に比べ、現在は噛む回数が減り、顎が小さくなって歯の大きさと合わず、歯並びの悪い人が増えているといいます。しっかり噛めなくなる口のトラブルは、早期発見・早期治療が大切です。日頃から自分の口の状態を知るためにも、家族や周りの方も、今から一緒にチェックしてみましょう。
  •  以前よりかたいものが食べにくい
  •  食事の時間が長くなった
  •  左右の奥歯(入れ歯でも可)でしっかり噛みしめられない
  •  口元の表情(笑顔など)が乏しい
  •  痛み、出血、歯のぐらつき、喪失、歯ぐきの腫れなどがある
  •  口臭が気になる
  •  薄味がわかりにくい
  •  口の中に汚れや食べたものが残っている
  •  舌の表面が白く苔のようになっている

⇒1つでも該当したら、歯科医・歯科衛生士に相談しましょう。

口のトラブルチェックリスト

しっかり噛んで健やかに過ごそう

高齢者の体力低下は、必要な栄養が摂れていない低栄養状態が原因のこともあります。
「しっかり噛む」ことは「しっかり食べる」ことにつながり、必要な栄養を摂るための条件ともいえます。栄養が満たされてくると、リハビリテーションやトレーニングに臨む体力もついてきます。さらに顎をよく動かして「しっかり噛む」ことによる刺激は、脳内の血流を増加させ脳細胞の働きを活発にします。その結果、運動機能や生理機能が向上します。
たとえ歯を失っても入れ歯をつけてしっかり噛むことで、「認知機能が改善した」「表情が豊かになって社交的になった」「杖なしで歩けるようになった」など、栄養を摂ること以外の効果もあることが報告されています。

    <ワンポイントアドバイス>
  • 専門的な治療や入れ歯の調整が必要な場合は歯科を受診しましょう
    (かかりつけの歯医者さんを持つと安心です)
  • 適切なケア用品を使い、正しいケアの方法を指導してもらいましょう
    (歯みがきや入れ歯の洗浄だけでなく、舌みがきも忘れずに)
  • 噛める口になったら、「しっかり噛む」ことを意識しましょう
  • 口の動きをよくするトレーニングをしましょう(第8回で解説します)
口を動かす運動

まとめ

わたしたちは普段「しっかり噛む」ことをあまり意識せずに食事をしているかもしれませんが、実は口と脳が大量の情報を伝えあって噛むことができています。食事をたのしむためにも、脳を刺激して体の働きを維持・向上させるためにも、しっかり噛める口を守っていきたいですね。
第8回は、食べ物を飲みこみやすくまとめるために必要な「唾液」のパワーを解説します。

参考文献

*「口腔機能向上マニュアル」分担研究班:口腔機能向上マニュアル~高齢者が一生おいしく、楽しく、安全な食生活を営むために~(改訂版),平成21年
*金子芳洋, 向井美恵編:摂食・嚥下障害の評価法と食事指導. 医歯薬出版株式会社, 2001
*福田徳治、石塚三寿:口腔ケア―入れ歯で歩く元気な老後、日本医学館